「カラオケ えんか村 日の出」に行ってみた

カラオケ えんか村 日の出 川本町の記事
カラオケ えんか村 日の出

 数十年前の川本にはたくさんの飲食店が立ち並んでいた。ある町民は、居酒屋だけでも町内に20軒ほど存在していたという。そのうちの多くは、高齢化や働き口の減少などの時代の流れに伴い、営業をやめていった。

 そうした中、食堂を営んでいた沖田さん夫婦は食堂を閉業し、新たにカラオケ店を開業したというのである。現在も、演歌を愛する人たちのコミュニティの場として親しまれながら営業を続けている。お話を伺うため、新聞部は「カラオケ えんか村 日の出」を訪れた。

いざ、入店。

マスターと桂子さん
マスター・正人さん(左)と桂子さん(右)

 ズラリと並んだサイン入りのポスターに、巨大なスピーカーを備えたステージ。もはやカラオケというよりライブハウスである。出迎えて下さったのは、えんか村のマスター沖田正人さん、奥さんの沖田桂子さんだ。

ポスター
ずらりと並ぶ歌手のポスター

なぜカラオケを?

 ここでは40年ほど前まで、「日の出饅頭」という焼き饅頭を作っていた。小豆から手作りする餡に砂糖や蜂蜜、水飴がたっぷり入った、手間暇かかる逸品。甘い菓子が少なかった時代、手頃で美味な日の出饅頭は当時の川本高校生にとって思い出の味だったそうだ。

 その後、日の出饅頭はあまりに手間暇かかるため販売終了し、日の出饅頭と同時に営業していた食堂で仕出しを始める。お好み焼きや焼きそばなどの手作りの料理を安い値段設定で作り、合庁や警察署、NTTなどにたくさん仕出しを行っていた。

 しかし、仕出し先のNTTなどが撤退していき、手作り料理を安価で提供することが難しくなった。マスター曰く「先が見えなくなってきた」という。同時期に桂子さんの手が悪くなったのもあり、平成21年、大胆にも食堂からカラオケ店に看板替えすることになった。

 「(日の出食堂閉業後に)本当は何もしたくなかったんだけど、老化防止のためにも商売を続けようと思った。カラオケであれば負担も少ないし、何より二人とも歌が好きだったから、えんか村を開くことにした。」時代が変わっても商売を続けていく活力と、思いを実現するために大胆な改装もいとわない行動力に、尊敬の念を抱かざるをえない。

日の出食堂の正人さん・桂子さん
日の出食堂時代の正人さん・桂子さん

マスターの”こだわり”

 えんか村には数多くの、マスターの”こだわり”が見られる。

音響設備
ステージ
ステージの脇に大きなスピーカーが積み重なる。

 第一に、えんか村の音響設備だ。開業当時、マスターは音響について全く素人だったそうだが、「せっかくなら、歌う人が気持ちよく歌えるように」という思いがあった。そこで、川本歌謡会やカラオケのボランティアグループ等でマスターと交友があったベスト電器川本店の三宅喜代美さんに協力を依頼し、えんか村の音響を仕上げていった。喜代美さんは、自身でCDを出したり音楽活動をしながら、島根県各地のライブの音響に携わった腕利きの音響職人である。

 吸音材は天井、壁に2枚ずつ張っている。積み上げられた大きなスピーカーは、悠邑ふるさと会館のホールに置いても十分な仕様だ。マイクも、現在では生産していないアナログマイクの良いものを使っている。開業後も2年にわたって緻密な調整を重ね、現在の音響に辿り着いたそうだ。お話を伺った私も一曲歌わせて頂いたが、まるで自分が上手になったかのように思える響きで本当に気持ちよく歌うことができた。

歌を楽しむ人のための環境づくり

 また、えんか村は開業当初から店内禁煙となっている。マスター自身も以前は喫煙していたが、兄の手術を機に禁煙したため、喫煙の重要性をよく知っているのだ。「ここは空気が綺麗で良い」とお客さんにも好評なんだそう。純粋に歌を愉しみたい人が心地よく過ごせるための、大切な”こだわり”である。

 このようにえんか村日の出には、いい音と歌いやすい環境づくりのために、いくつものこだわりがある。思えば、マスターの”こだわり”はえんか村に始まったことではなさそうだ。手作りで手頃に提供することにこだわった食堂、さらに販売終了まで材料にこだわり続けた日の出饅頭。日の出饅頭や食堂でのこだわりは、時代によって商売の形を変えながらも、同じ場所で商売の指針であり続けている。愛される商売を長く続けるには、時代の変化に対応しつつも、こだわりを持ち続けることが重要なのかもしれない。

 

地域のコミュニティを成すえんか村

 えんか村はお客さんにとって、今や憩いの場所である。ステージで友達や他のお客さんの前で歌うことが元気の源になっているようだ。また、えんか村を通して新たな交友関係が生まれることもしばしば。

 あるお客さんは「えんか村に来るとホッとする」と言い、あるお客さんは沖田さん夫婦に、米や野菜を差し入れに持ってくるのだ。正人さんや桂子さんとお客さんの間で、金銭を伴わない気持ちの応酬が起きているのだ。

プロの歌手にも心地よい

 月1回ほど開催するキャンペーンでは、プロの演歌歌手がえんか村に来店して歌を披露するが、演歌歌手にとっても、えんか村は心地のよい場所となっているようだ。えんか村と歌手との信頼関係が築けているため、歌手は握手やツーショットにも無料で応じてくれる。中には15回ほど来店している歌手もいるそうだ。

えんか村に行ってみよう!!

 時代の流れで食堂を閉める代わりに、大改修して開業したカラオケえんか村。今や地域の歌好きにとって貴重な憩いの場になっている。

 一曲200円、場所代が無料なので、談笑しながらのんびり歌いたい方におすすめ。電話で予約が可能だ。あなたもぜひ、マスターこだわりの音響の中でマイクを手にとってみてほしい。

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