2023年、島根県美郷町ではバリ島マス村友好30周年を記念したイベントが行われた。マス村からは訪問団が訪れ、バリの民族音楽「ガムラン」と神楽の共演ステージなどでにぎわった。来場者はのべ約1100人にのぼる。さらに、美郷町からも、中高生を含む約40人でバリを訪れ文化交流を行った。2023年は、マス村との友好30年にして、過去最大に交流が起こった年だと言える。
バリと盛んに交流を行う美郷町の姿を、美郷町役場「バリの町室」の岩谷さん、矢渡さんに伺った。
バリとの交流が再燃したワケ
近年、美郷町が”本気で”マス村と交流するのには理由がある。
美郷町は深刻な人口減少に悩まされているが、出生数による”自然増減”はどうしても歯止めが効かない。そこで、外部からの流入・外部への流出である”社会増減”で社会増を伸ばすことで人口減少を食い止めたい。
流入数を増やす材料として、マス村との交流を持ち出したのが、6年前に就任した町長の嘉戸隆さんである。当時交流が途絶えかけていたマス村と再び交流を再燃させることで、マス村の人やバリ島と関わる国内外の方を美郷町に集め、美郷町への流入数を増やすという作戦だ。
では人口減少を食い止め、流入を増やさなければならない理由は何なのか。「外部からの流入数を増やし、幸福度の高い町づくりを目指します。今のままでは町が衰退し、いかに「店じまい」するかというネガティブな議論しかできなくなります。社会増を目指すことで前向きな議論が可能になってきます。」ポジティブな議論をするには、前向きな潮流がないと難しい。その潮流の1つとして、社会増が重要とされるのだ。
そして、人口の社会増とは別に、活動人口(美郷町に関わってくれる人(関係人口)の中でも良質なものを『活動人口』と定義している)の増加も目指している。活動人口は、美郷町外に住んでいながらも、美郷町のことを対外的にPROしてくれ、また美郷町の取り組みに積極的に関わってくれる。従って、この活動人口の増加によって、地域活性化に繋がると考えられるのだ。
「バリの町づくり」の成果
美郷町がマス村と交友を深めたことで、実際に美郷町の中でポジティブな変化が起きている。
2019年に技能実習生の受け入れ協定を結んだ美郷町には、インドネシアから来た5人の技能実習生が住んでいる。うち2人は美郷町の農業を営む企業に勤務し、3人は川本町の加藤病院に介護士として勤務している。彼らは地域の空き缶拾いに参加し、縁日ではバリの料理を作ることもある。地域住民として美郷に住み、文化交流の立役者として活躍している実習生の方がたくさんいるのだ。
矢渡さんは言う。「実習生のみなさんは本当に働きがよく、明るい人たちばかりです。こうした人たちが町外や海外からやって来ることで、地域の外部に対する閉鎖的な雰囲気に、1つ風穴を開けるような効果もあると思います」
バリの町づくりをきっかけに美郷にやってきたのは技能実習生だけではない。バリ島マス村に約20年住んでいた田中さんは、美郷がバリの町であることを知り、3年前に美郷町にIターンした。現在は美郷町で起業し、美郷町の食材を使ったインドネシアの辛味調味料「みさとサンバル」を販売している。
活動人口を増やす音楽「ガムラン」
美郷町がこれほどバリ関連で賑わうのには秘訣がある。美郷町はバリの民族音楽「ガムラン」の楽器を3セット保有しているが、このガムランの楽器が多くの人間を美郷へ引きつけているという。
ガムランを奏でるためには、いくつもの金属鍵盤やゴング、太鼓などが必要だ。これら全てを持って行くのは難しい。しかし美郷町ならば、全国のガムラン楽団はガムランを手ぶらでも演奏しに来ることができる。
5月5日には広島県のガムラン楽団「バパン・サリ」が、美郷町の町民ホールで公演を行った。バパン・サリは公演の数日前から、練習のために美郷町で合宿していたという。
今年10月には大規模な祭り「美郷バリフェスティバル」が開催される。東京、静岡、広島、香川、そして美郷町から5つのガムラン楽団の出演、さらにバリ舞踊の人間国宝ともいわれるイ・グスティ・アグン・スシラワティ氏をバリから呼ぶ。彼女はバリ島を代表するレゴン舞踊の専門家で、アジア、北欧、アメリカなど各国で舞踏公演を行っている。
未来へ進むバリの町づくり
バリの町づくりという攻めた政策に対し、町の人には様々な意見がある。しかし、このバリの町の政策によって多くの人が美郷に訪れ、さらには定住にも繋がっている。確かな実績を産み出しているのだ。
「町民全員にとって良い政策というのはないし、批判も受け止めなければならない。ただ、この政策で美郷町が良くなっていくと考えて取り組んでいる。」と矢渡さんは言う。バリとの交流で好転してゆく美郷町の姿を、これからもワクワクしながら見届けていきたい。
コメント