(2023年6月取材)
中国山地の街ー川本町に、「あそラボ」という街づくりの拠点がある。都会では見られない街づくりの様子を見るため、あそラボを運営する大村信望さん(おおむらのぶみ・34)を取材した。
取材当時「Orange」にいたのは小中高生20人ほどで、非常に賑わっていた。彼らは談笑したりゲームをしたり、新たな企画について議論したりと、各々の放課後を楽しそうに過ごしていた。建物の名称は「Orange」で、Orange内で行われる地域活動等が「あそラボ」と呼ばれている。暖色の照明と木やコンクリート中心のインテリアは、現代風かつ温かみのある雰囲気を醸しており、若い人々が集う場所に相応しい空間であると思えた。
あそラボとはなにか
「あそラボ」は、主に小学生から高校生までの放課後の居場所である「コミュニティカフェ」でありながら、同時に様々な地域活動に参加することができる。さらにレベルアップすると、自分自身で企画を立ち上げる。
このため「あそラボ」は、単なる居場所であるだけでなく、将来的なキャリアにも繋がるのだと大村さんはいう。
大村さんはなぜコミュニティカフェの設立に至ったのか、また「居場所」×「地域活動」という斬新で画期的な発想は一体どこから生まれたのか。大村さんの現在までの道筋を探った。
「コミュニティカフェ」の原点
大村さんの出身は神奈川県、7人兄弟の長男として生まれた。兄弟間でのぶつかり合いはあったが、ぶつかり合いを通して折り合いの付け方などを学ぶことができ、大村さんにとって「7人兄弟であることが強み」なのだそう。この経験から、ほかの人にも「疑似的に兄弟を体験してほしい」という思いがあった。この思いが、幼児から大学生まで幅広い年代が集うコミュニティカフェの設立の原点にあった。
「地域づくり」×「人づくり」の原点
地域づくりに取り組む大村さんだが、もともとは地域づくりの中でも建築を志していた。また日本ではなく海外での活躍を望んでいた。
そんな大村さんにとって大きな転機となったのが「東日本大震災」だった。被災地支援に参加し被災した街が再生する様子を見て、街を作るのはコンクリートではなく人なのだと気づいた。街を作る人材を教育する「人づくり」の重要性を目の当たりにしたのだ。
大村さんは親が運営する会社に勤めながら「人づくり」についての事業を模索した結果、「地域おこし協力隊」の教育分野での活動に行き着いた。しかし、教育分野での活動を募集していたのは島根県だけであった。2017年、大村さんは教育分野で活躍するべく、縁もゆかりもない島根へ渡った。
島根に渡った大村さんは、地域おこし協力隊の一員として学習交流センターのコーディネーターを務めたのち、川本町で開かれたビジネスコンペティションに出場した。スナックの空き店舗の活用についてのビジコンで、賞金は3年で1200万円。大村さんはこのビジコンを勝ち取り、空き店舗だったスナックを現在のコミュニティカフェ「Orange」へと生まれ変わらせたのだった。
コミュニティカフェでありながら積極的に地域活動を行うというあそラボのスタイルは、「地域づくり」と「人づくり」に重きを置く大村さんならではの発明と言えるのではなかろうか。
あそラボのようなスタイルをとるコミュニティカフェは全国的にも類を見ないため、あそラボの取り組みは実験的な意味も込められている。実際、島根県知事の視察なども行われ、島根県のモデルにもなっている。あそラボの今後には目が離せない。
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